選挙理解の深まりと浅い支持理由
4年に一度のアメリカ大統領選は、毎回日本でも大きく報道されるが、今回は特に関心が高かったようだ。ペンシルベニア州とフロリダ州の開票方法の違いであるとか、選挙人制度の詳細などの専門的な知識が一気に普及するなど、長年この分野の報道に関わってきた私には驚くような現象も起きた。
その一方で、日本の大統領選報道にはどこか「ズレ」があるのも事実であり、今回は余計に目についたということも否定できない。例えば、語呂合わせを使った紹介がある。2009年にオバマ大統領が就任すると、福井県の小浜市が名前が同じだとして盛り上がった。同じように今回は、熊本県にある山都町の梅田穣(うめだゆたか)町長という人物が話題となっている。名前を音読みにすると「ジョー・バイデン」になるというのだ。
梅田がバイデンなら、大阪のキタなどは大いに盛り上がっているのかというと、こちらは訪日外国人が迷わないように阪急の梅田駅を「大阪梅田駅」に改名したばかりということもあって、それほどではないようだ。日本で名前を浸透させるための苦肉の策ということなのかもしれないが、本人をはじめとしたアメリカ人には説明が難しいし、要するにダジャレに過ぎないわけで違和感がある。
違和感ということでは、今回の選挙報道に対して意外なことに日本国内にトランプへの応援の声が増えたということがある。政治的な立場として支持するのであればともかく、理由としては「中国に対して強硬だから」とか「アンチ・エリートの姿勢に共感」といった気軽なものが多いのは気になる。実際にトランプ政権が対日政策として取ってきたのは、例えば日本の自動車メーカーに対して米国内に工場を作れと強引に迫ったり、その自動車に関する通商交渉で強硬姿勢を取ったりするなど、決して親日的ではなかった。
また在日米軍の駐留費などを巡って、仮に再選されていた場合に次の4年間の日米関係には不安要素も大きかった。例えば、安倍前総理がトランプ氏と個人的な信頼関係を維持してきたのはトランプ政治に共感したからではなく、トランプ流の交渉術に負けないようにして国益を防衛するためだった。そうしたことを考えると、日本でのトランプへの応援の声の増加には困惑せざるを得ない。
一番驚いたのは、日本におけるアンチ・トランプの言論の中には、トランプ氏の獲得票数の分、つまり7000万のアメリカ人は人種差別的だという決めつけが見られるということだ。アメリカの保守票が持っている奥行きと多様性を無視した乱暴な議論であり、極めて残念である。
日本のハリス氏評誤解の背景にあるもの
一方で、アメリカの民主党についても誤ったイメージが広がっている。驚いたのはカマラ・ハリス氏について、アメリカ版の蓮舫氏という形容がされていることだ。ハリス氏は確かに野党であった民主党の上院議員であり、政府を追及する姿勢が日本の野党議員に似ていると思われたのだろう。だが、アメリカの民主党は、いつでも政権担当が可能な体制を抱えているし、上院議員ともなればその事務所が多くのスタッフを擁した政策立案機関でもある。またハリス氏の地区検事からカリフォルニア州検事総長を歴任した法曹としての実績を考えると、人物に関して正しいイメージが伝わっているとはとても思えない。
このような誤解が広がる背景には、やはり日本の「内向き志向」があると思われる。人口減により翻訳書の出版が減少したこと、ハリウッド映画の日本への影響が減ったこと、日本から米国への観光や駐在、あるいは留学による人の交流が少なくなっていることなどが背景にある。明らかに人と情報の交流が細くなっており、その上に、コロナ禍が拍車をかけている。
日本でアメリカ大統領選挙への関心が高まるのはいいことだが、この機会にアメリカの二大政党について、より正確な理解が広まるようにアメリカからの情報発信に留意していきたい。
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(2020年12月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2020年12月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。