匂いに敏感な日本社会

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

不快な匂いのケアか? 匂いのケアが不快か?

冷泉コラム_匂いケアグッズ

防臭機能や香りの付いた柔軟剤が日本で流行中。

日本では「匂い」は深刻な社会問題になっている。大きな背景としては昭和から平成初期とは違って、現代の日本は個人的な不快感をしっかりアピールすることが許される社会になったということがある。このことは前向きに評価しておきたい。
 
とはいうものの、日本の匂い問題はとにかく厄介だ。まず、体臭の問題がある。 中高年者の体臭や、体質による体臭は昔からあった。だが、体臭はプライベートな問題であり、よほど親しくないと不快だということを伝えるのは遠慮して我慢するのが常識だった。
 
しかし、近年はこうした問題への視線が厳しくなっている。まず、匂いに対する過敏症の人が増えており、そうした人の場合はダイレクトに健康問題となるので、周囲は遠慮しなくてはならないようになった。また、その延長で「体調が悪くなるほどではないが、不快だ」という感覚をアピールすることも許されるようになった 。
 
日本の場合は、アメリカと違って満員電車では人と人が密着して動けない状況があるし、オフィスも大部屋で人口密度が高いという事情が、この問題に拍車をかけている。
 
そこでアメリカに学ぶということで、デオドラントスプレーなどを肌につけたり、洗濯の際に芳香剤の入った柔軟剤を使って匂いをコントロールするのが流行し始めた。アメリカの著名な芳香剤のブランドを、日本のスーパーやドラッグストアでよく見かけるようになった。
 
だが、今度はこの芳香剤や消臭剤が問題となった。匂いに対する過敏症の人の中には、こうした芳香剤や消臭剤で体調を悪くする人が出てきたのである。販売しているメーカーは「規定量を守れば健康被害はない」としているが、過敏症の人は、例えば、満員電車で柔軟剤を使った服を着た人の隣に立つだけで気分が悪くなると主張しており、答えは出ていない。

匂いをめぐる新しいマナー、ルール

柔軟剤がダメというぐらいであるから、ましてオーデコロンとかフィルムといた香水の評判はもっと悪い丸現在の日本では、職場や満員電車で香水の匂いを感じることはほぼなくなったし、デパートの香水売り場はしょく縮小され、日系航空会社の免税品カタログでも香水は少なくなった。
 
特に香水が問題になるのは食事の場合だまる確かに以前から、繊細な懐石料理を出す店などでては強い香水は遠慮すべきというようなマナーはあったまるだが、現在は、ほぼ全てのレストランや料理店で、香水は嫌がられるようになっている。
 
一方で、その食事の匂いが問題になることもある。これもアメリカの影響だが、最近の日本では、ご近所同士でのBBQ(バーベキュー)が流行している。ところが庭でBBQをすると煙と共に匂いが拡散して深刻なトラブルになることがある。腹を立てた住民が消防車を呼んだり、中にはバーベキューが原因の殺人事件も起きたぐらいだ。 住宅と住宅が密接しているという問題もあるが、一部では住宅地でのBBQは事実上禁止という動きも出てきている。
 
食事といえば、新幹線の車内で駅弁を食べるのは旅行の楽しみの一つだが、ここでも匂い問題が発生している。現時点では、冷たい駅弁はまだ許されているが、例えば、新大阪駅で売っていた豚まんとたこ焼きは匂いが不快だということで、批判を浴びてしまった。現在は、持ち帰りのたこ焼きには「新幹線車内及び駅構内でのお召し上がりはご遠慮願います」という表示がされ、豚まんについては駅コンコースではチルド(冷蔵)しか販売されなくなっている。
 
こうした問題については、日本が人口密集社会だという共通の原因を指摘することはできる。だが、現状はそれを超えて複雑化、深刻化しているのも事実だ。 臭いの問題は直感的なだけに、衝動的な口論や暴力を誘発する危険性もある。外国人旅行者への注意喚起なども含めてトラブルを未然に防いでいきたいものだ。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2019年7月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年7月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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