行きたい人が、払いたい額で買うアメリカのチケット
アメリカではチケット転売サービスが盛んだ。StubHubやTicketmasterなどのチケット販売サイトでは、スポーツや音楽など、あらゆるイベントのチケットが売られている。その多くは「転売」だ。eBayなどのオークションサイトでもチケットを扱っている。人気イベントでは、需要と供給の関係から価格が上昇し「プラチナ・チケット化」する。逆に値段が下がることも多い。そこでは、まさに市場原理が働いている。
イベントのタイミングによっては転売チケットの郵送が間に合わないこともある。そこで、電子チケットを使って、購入者がチケットをダウンロードするサービスも行われている。
転売サービスが広まったのには、複雑な座席表がネット上で確認できるようになったことや、バーコード発券など技術の進歩が大きい。同時に多くのミュージシャンが、ビジネスの比重をCDセールスからツアー収入にシフトしていること、フットボール(NFL)やバスケット(NBA)の一部の試合のチケットがプラチナ・チケット化している現象なども背景にある。
その結果、都合のつかなくなった人はチケットを転売できるし、イベントの日程が近くなってもお金さえ余計に払えば、チケットの入手が可能なわけで、利便性は高まっていると言える。
チケットから垣間見える厳しい法規制と格差社会
だが、このチケット転売というビジネスは、日本では強く制限されている。
理由としては、転売ビジネスを利潤目的で行うことや、チケットを定価より高く販売することが法律で禁止されているからだ。チケット転売サイトは存在するが、サイトの自主規制で高額チケットは出品禁止になったり、チケットを営利目的で売ったことが分かると警察の捜査対象となったりする。
さらに、人気イベントの場合は、顔写真入りの本人認証システムが導入されている。チケット購入時に顔写真を登録し、写真入りのIDなどで本人チェックを行う仕組みだが、この場合は、仮に都合がつかなくなっても転売は不可能で、代理で家族や友人が行くこともできない。中には同行者の変更が可能な場合もあるが、変更の申請には制約がある。
制限の理由としてよく言われるのは、俗に言う「ダフ屋」、つまり暴力団の収入になることを防止するためだが、非合法だから反社会勢力の収入源になっているわけで、合法化すれば問題は消えるはずだ。また、転売目的での買い占めが起こると、本当に行きたい人がチケットが買えなくなると言われるが、それもアメリカのように市場で自由な価格で買えれば問題はないだろう。プラチナ・チケット化してしまうと、アーティストには最終的な価格に見合った収入が入らないという批判もあるが、だったら定価を高くすれば良いはずで、一体どうしてここまで厳しい規制があるのだろうか?
一部には、格差社会を背景に自由競争でチケットが高額化すると、芸能人などのイメージ低下につながるという見方がある。アイドルグループのチケットなどは、自由市場で価格を決めればプラチナ・チケット化してしまうが、仮に10万円とか20万円払わないと行けないとなると、会場は富裕層ばかりになる。だが、そうなると庶民性を売り物にしているタレントイメージが崩れてしまい、地上波TVでのCM出演の価値がなくなるというのだ。
これは非常に難しい問題であり、日本の場合は、何もかもをアメリカ式にしてうまくいくわけでないようだ。例えば、2020年の東京五輪に関しても、厳しい転売規制をかける計画があるようで、そうなると最初からプラチナ価格で販売する可能性もあるだろう。これでは、五輪がいきなり日本の格差社会を浮き彫りにすることとなり、賛否両論が予想される。一部には、五輪会場の入場時には最先端の顔認証を導入する計画もあるという。世界中から来る観客に顔認証をさせるのが「おもてなし」というのは、理解を得るのは難しいだろうし、そもそも実務的に運用できるのか疑問だ。
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(2018年1月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年1月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。