自動改札の利用時にはICカードの残高に要注意
アメリカ生活が長くなると、満員電車に代表される日本の「交通機関でのマナー」を忘れてしまうことがある。久しぶりに日本に帰国した時に「ウッカリ」アメリカ式にやってしまって「しまった」という経験をした方は多いのではないだろうか。今回は、この日本の「交通機関のマナー」について考えてみたい。
まず、大都市を中心に日本の多くの鉄道では駅の改札は自動改札になっている。しかも、多くの乗客は、ICカードやスマホなど非接触式の電子マネーで改札を通る。この自動改札というのが問題だ。例えば、朝晩のラッシュ時間帯など混雑する改札で電子マネーの残高不足などで「引っかかる」のは「迷惑」という声が多くなっている。先を急ぐ人の流れを妨害するからだ。ほとんどの自動改札は、入場するときに「残高」が表示されるが、これはその残高を見て足りなければ降車駅で精算するためにある。改札で引っかかる前に精算機へ行きなさいということだ。また、近年では「ICカード専用改札」というのが増えていて、切符では通れないこともあるから、こちらも要注意だ。
駅の関係では、エスカレーターの問題がある。現在でも日本の都市部では、エスカレーターに乗った場合に片側を空けておき、急いでいる人が歩いて行けるようにするという「マナー」が定着している。だが、近年はこのために「接触事故」が多くなっており、鉄道会社などでは「片側空け禁止」というルールを導入しようとしている。だが、「禁止」というと反発が出る可能性があるために、「エスカレーターに乗る人は必ずベルトを握るように」という言い方で「走る」のを禁止しようと言うのだ。まだこの「禁止措置」は定着していないが、どうなるか要注意だと言える。
鉄道乗車時の常識も技術の進化で様変わり
鉄道の車内マナーにも変化が起きている。つい先日までは、関東でも関西でも「優先席付近では携帯電話の電源を切るように」というアナウンスがされていた。ペースメーカー等、埋込み型の医療機器に悪影響を与えないためだが、このタブーは技術の進歩に伴って意味がないことが明らかとなってきていた。だが、医療機器のユーザーを不安にさせるのは問題ということで、特に関東の鉄道各社はアナウンスを続けていたのが、昨年の半ばにようやく廃止されている。
また、子育て中の人々を対象としたものでは、ベビーカーの扱いの問題がある。近年では電車やエレベーターに「ベビーカーを広げて乗って良い」という方向に日本の社会は変わりつつある。例えば昨年末に試作車が走りだした「新型の山手線電車」では、車両の端に「車いすとベビーカーの乗車スペース」が設定されているぐらいだ。子育ての経験のある50代以上の人からは「自分たちの時にはベビーカーを畳んで背負ったのに、今の親は平気でそのまま乗ってくるので迷惑」という反対論もある。だが、安全基準が厳しくなった日本のベビーカーは重量化しており、畳んで背負うのは不可能になっているというのも事実だ。何よりも、少子化の中、子育て世代の負担軽減をということでもある。
電車の車内のマナーということでは、車内での「化粧」や、通勤電車での「飲食」については、今でも「不快だ」という声が多い一方で、少しずつ「認める」という声が出てきている。忙しい社会になり、移動中の電車内で急いで食事を済ませる人も増えており、絶対ダメとは言えない状況もあるからだ。
深刻な問題となっているのが「席の譲り方」だ。優先席などで高齢者に席を譲った場合に「私を老人と思ってバカにしている」などという暴言を吐かれるという事件が多くなり、鉄道各社も頭を痛めている。これについては、色々な見方があるが「暴言は認知症の初期症状」だと思って「かわいそうだ」と思いながら立ち去るのがスマートだという意見もある。
揺れ動く「交通機関でのマナー」には、日本の世相の変化が垣間見えるのではないだろうか?
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(2016年1月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年1月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。