(2023年3月16日号掲載)
アメリカ国内で相次ぐ統廃合
2022-23年度のアドミッションでは、大学出願者数が過去最高を更新しました。海外からの出願増など、アメリカの大学は、景気の良い話題に溢れています。ところが、経営難でキャンパスを閉じる大学もあります。
カリフォルニア州オークランドのHoly Names Universityは、23年春学期で大学を閉じると発表しました。また、ランチョ・パロス・バーデスのMarymount California Universityは22年に廃校となりました。ニューヨーク州のCazenovia Collegeとサウスダコタ州のPresentation Collegeも23年に学校運営を終えると発表しています。いずれも小規模な私立大学です。
他大学との統合により、廃校を免れることもあります。オークランドの女子大Mills Collegeは、ボストンのNortheastern Universityと経営統合し、共学の分校として再出発しました。ペンシルベニア州フィラデルフィアのSaint Joseph’s University(SJU)は、22年にUniversity of the Sciencesを、23年にPennsylvania College of Health Sciencesを受け入れると発表しています。SJUは、近隣の理系大学を救済するだけでなく、SJUの科学医療分野を強化できるので、大学の価値がより高まると考えています。
廃校で影響を受けるのは在校生です。Holy Names Universityの在校生は、ベイエリアにあるDominican University of Californiaに移籍できることになりました。また、Marymount California Universityの学生は、University of La Verneが編入と単位の互換を確約し、同額のファイナンシャルエイドの提供も決まりました。
大学淘汰の原因と今後の傾向
経営が行き詰まった大学は、口をそろえてパンデミックの影響を強調しますが、小規模大学の淘汰は、パンデミックのはるか前から続いていて、むしろ最近は減少傾向にあります。パンデミック中は、政府から助成金が提供され、延命できた大学が多かったとの見方もできます。助成金が打ち切りとなる23年以降、大学の統廃合が急増する可能性は大いに考えられます。
今後、淘汰される大学が増えると考えられる根拠のひとつに、18歳人口の減少が挙げられます。Carleton College教授でエコノミストのNathan D. Grawe氏は、25〜29年に、大学進学者数は15%減少するとしています。08年の金融危機の影響で、08〜11年にかけてアメリカの出生数が激減し、その年代が大学に進学するのが25〜29年です。Grawe氏によると、30年以降も徐々に減っていくとのことです。
経営悪化のリスクが大きい大学
経営難に陥った大学に共通する特徴に、経営基盤の弱い小規模大学であることが挙げられます。アートスクール(美術系単科大学)は、多くが小規模大学で、経営基盤は脆弱です。ポートランドのOregon College of Artは、19年に廃校となりました。シアトルのCornish College of the Artsは20年秋に財政危機に陥りました。その後、経営を再建しましたが、助成金が打ち切られた後の運営には不安が残ります。また、リベラルアーツ・カレッジの中には財政的に非常に恵まれた大学がある一方、地元の学生を主対象とする経営基盤の弱い大学も少なくありません。
また、地域差も大きいと思われます。大学進学者数の減少が特に大きいのは、アメリカ北東部や中西部で、大学の数が多いのも同地域です。このエリアから経営が悪化する大学が今後顕在化しても、不思議ではありません。
そんなアメリカの大学を救うのは、アジア系移民かもしれません。アジア系アメリカ人の大学進学率は突出して高いため、インドや中国の移民が多い地域では、今後も大学に進学する学生の増加が見込まれます。とはいえ、それは、ごく一部の州に限られます。
進学者数の減少は、将来大学を目指す子どもに好都合です。北東部や中西部の大学から、奨学金で好条件が引き出せる可能性もあります。しかし、いくら魅力的な条件を提示されても、その大学が閉校しては意味がありません。Moody’sとS&Pは、アメリカの大学の信用格付けも行っています。希望する進学先の経営が気になる場合は、格付けデータを参照してみてください。
(2023年3月16日号掲載)
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