(2023年4月号掲載)
大学ランキングは、順位が少し上がるだけで、アプリケーションが増えたり、優秀な学生が獲りやすくなったり、大学には重要なマーケティングツールです。U.S. News & World Report(以下U.S. News)は、1983年から全米の大学や大学院のランキングを毎年発表しています。高等教育の専門家は、ランキングがエリート主義を助長し、ランキングのメソドロジー(方法論)に欠陥があると長年指摘してきました。それでも各大学は、ランキングを決めるのに必要なデータをU.S. Newsに提供し、順位が上がれば、広報で大きく取り上げてきました。
ロースクールのランキング離れ
ところが、今、大学とU.S. Newsの関係が大きく変わりつつあります。事の発端は、2022年11月に、ロースクールのランキングで常に1位を維持してきたYale Universityのロースクールが、U.S. Newsのランキングをボイコットし、データの提供を拒んだことにあります。
U.S. Newsのランキングのメソドロジーが、Yaleロースクールが目指す法律の専門家の育成への取り組みと相容れない上、大学の取り組みに悪影響を及ぼすと、Yaleロースクールの学部長はコメントしています。
U.S. Newsは、ランキングのメソドロジーを毎年変更します。メソドロジーを変えなければ順位は動かず、順位が動かなければ、売上が上がらないからです。U.S. Newsにとってランキングは収益の柱で、ランキングでいかに大きなドラマを演出し、売り上げにつなげるかが重要です。大学を訪問すると、ランキングを誇示するバナーやトロフィーを見かけることがあると思います。ランキングが変動すれば、これらの広告商材の売り上げが増えます。
Yaleのボイコットは、他のロースクールにも影響を及ぼしました。直後にHarvardのロースクールがボイコットを発表し、その後、Stanford、Georgetown、Columbia、Northwesternなどの名門私立大学のロースクールが加わり、UCLA、UC Berkeley、Michiganなど州立大学のロースクールにも広がりました。
メディカルスクールのランキング離れ
ランキングのボイコットはメディカルスクールにも波及し、23年1月にHarvardのメディカルスクールは、U.S. Newsのランキングをボイコットすると発表しました。
すると、Columbia、University of Pennsylvania、Stanford、Icahn School of Medicine at Mount Sinaiの4校が追随しました。いずれもランキング上位の常連校です。さらにボイコットは、Cornell、Duke、University of Chicago、University of Washingtonなど、全米に広がりました。Columbiaメディカルスクールの学部長は、U.S. Newsのランキングは、社会のニーズに応えて、医療を進化させようと努力する医師の育成を評価するのではなく、知名度や大学の資金力を評価していると指摘します。
U.S. Newsは、情報提供を拒否している大学も、別の基準で評価し、ランキングに加えると発表しています。
学部ランキングへの影響
Stanfordの学部プログラムは、18年からU.S. Newsへの情報提供を拒否しています。オレゴン州のReedCollegeもランキングをボイコットしている大学として知られています。学部のランキングのボイコットは、極めてまれです。
ランキングのボイコットは、いずれは、学部プログラムでも起こると考えている大学関係者は少なくありません。一方、大学についての知識が乏しい高校生にとって、ランキングは大学の名前を知る機会のひとつかもしれません。また、学部の大学選びは、親が関わるケースが多いため、子どもが進学する大学のランキングで見栄を張りたい親がいる限り、学部のランキングは存続するだろうと指摘する専門家もいます。
ランキングは、他人が他人の価値観に基づいて作ったもので、自分の価値とは無関係です。アメリカの大学は、学校ごとに教育システムや雰囲気が大きく異なります。自分の学習スタイルと合い、居心地の良い大学を選ぶことが重要です。ランキングに惑わされず、多くの大学を訪問し、自分に合う大学を選ぶことをお薦めします。
(2023年4月号掲載)
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