(2023年12月号掲載)
2022年11月にChatGPTが一般ユーザーに公開されて以来、AI(Artificial Intelligence)は、大学のアドミッション担当者にとって関心事となりました。生成AI( Generative AI)で作ったアプリケーションをどう評価すべきかという課題に加え、アドミッション担当者自身が、AIを活用して業務の効率化を図る課題に直面しています。
生成AIによるエッセイ作成
アメリカの大学にアプライする際は、エッセイの提出を求められる場合が多く、エッセイの作成は受験生にとって大きな負担となります。ChatGPTやBard、HuggingChatなどの生成AIにエッセイを書いてもらおうと考える学生が増えるのは不可避です。23-24年度は、生成AIを利用して作られたアプリケーションのエッセイが、大量に大学に提出される初めての年となります。
Georgia Techは「生成AIはアイデア創出などに役立つ強力で価値のあるツールである」と使用を認めています。併せて、アイデアをブレインストーミングするのに使うことは問題はないが、最終的には自分自身で書いたものを提出するようにと指示しています。明確な基準を示す大学は極めて少なく、ほとんどの大学は暗中模索です。基準を示したとしても内容は大学により異なります。
University of Michiganのロースクールは、アプリケーションで生成AIの使用を禁止すると発表しました。違反が発覚した場合、入学取り消しや退学処分の可能性があると警告しています。一方、Arizona State Universityのロースクールは、生成AIを使用したアプリケーションを認めると発表しました。学生が先進技術への理解を深め、技術に伴う倫理的責任を学ぶ機会になると説明しています。
生成AIによるエッセイの価値
さて、生成AIは、アドミッションで評価されるようなエッセイを書けるのでしょうか? 文章の構成力や文法の正確さを高く評価する専門家は少なくありません。しかし、内容はアドミッションで評価されるレベルに程遠いのが現状です。アプリケーションのエッセイは具体的な経験を通した自分の成長を示すのが基本です。そのため、本人が過去を振り返り、自分と向き合って書くことになります。
生成AIのエッセイは具体性に欠け、表面的な考察と中身の薄い結論になりがちです。現在の生成AIではアプリケーションのエッセイで求められる内省の具現化は難しいようです。ただし、生成AIが進化すれば、より具体的で本人らしさが伝わるエッセイが作れるかもしれません。
AIを活用した入学審査
Intelligent社の調査によると、全米の50%の大学がすでに入学審査でAIを利用し、24年中に取り入れる予定の大学を含めると、80%に上ります。アドミッションでAIを利用する大学の60%は、エッセイの評価にもAIを使うと答え、学生が提出したエッセイが、本人によって書かれたものか見極めるため、AI Detector(AIコンテンツ検出器)で審査をする場合もあります。しかし、この調査によると、AIが最もよく使われるのは、成績証明書と推薦状の審査とのことでした。
また、パンデミック以降急増したアプリケーションやアドミッションへの問い合わせに対応するため、AIを利用した業務の効率化は避けて通れない課題です。23年末時点で、大学のアドミッションにおけるAIの利用にガイドラインは設けられておらず、各大学の独自の判断に任されています。アドミッションでAIを利用する大学の80%以上が、合否の最終判断をAIが行う場合が多いと答えたそうです。
成績証明書で基礎学力を見極め、推薦状にネガティブな内容が含まれていないかをチェックする作業は機械的なので、AIに置き換えることは簡単かもしれません。しかし、エッセイから人物像を読み取り、受験生を評価する作業をAIが行えるでしょうか? 倫理的に問題はないでしょうか? エッセイに特定のキーワードを入れるとAIアドミッションで高く評価されるというような、まことしやかな情報が独り歩きし、その情報に踊らされた学生が、結果的にアドミッションで不利になることだけは避けたいものです。
(2023年12月号掲載)
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