アメリカの高等教育は、これからの時代にふさわしい教育を模索しています。パンデミックは、大学教育を見直すきっかけになったと言えるかもしれません。
普及したオンライン教育
アメリカの大学教育は、2020年3月に全てオンラインに移行しました。20年の秋学期から対面授業を行ったリベラルアーツカレッジの対応力が高く評価された一方で、長期のオンライン対応を余儀なくされた大規模大学は、オンラインならではの教育方法への取り組みを進めました。
学生の反応にも変化が見られ、課外活動ができないことを残念に思う一方、オンデマンド授業の方が、理解が深まると感じる学生も増えてきました。学生が慣れてきたことで、大学側にも、オンライン教育の可能性が広がりました。
例えば、Northeastern Universityは、学部と大学院合わせて80以上のコースをオンラインで提供しています。University of Floridaは、学部だけで24コースを有しています。対面の学生と比べて学費が約4割安く設定されているのも魅力です。両大学とも、心理学や教育学、コンピューターサイエンス、デジタルメディア、ビジネスなど、学生に人気の専攻が受けられます。
集団教育から到達度別教育へ
大教室で全員が同じ講義を聞いて学ぶのが、全ての学生にベストな方法とは限りません。大学でもオンラインを活用することで、到達度別教育が導入しやすくなりました。自分のペースで学べるので、得意な分野は先に進められ、苦手な分野は時間をかけて学ベます。
併せてコンピテンシーベースのプログラムにも関心が高まっています。コンピテンシーベースの大学は、クラスで学んだ時間数で単位認定をする代わりに、コンピテンシー、つまり何かを成功させる能力に対して単位認定をするのです。学外で習得したスキルも、学内で習得したスキルも、同等の価値があるという考えに基づき、学生がすでに学び、身に付けたことに対して単位を認定します。
University of Wisconsinは、社会人経験のある学生を対象に、コンピテンシーベースのプログラム(UW FlexProgram)をオンラインで提供しています。社会で身に付けたスキルが単位認定に生かされるため、学生によっては短期間、低コストで学位が取得できます。
4年制コミュニティーカレッジ
カリフォルニア州の15校のコミュニティーカレッジでは、これまで試験的に4年制のプログラムに取り組み、21年10月の法改正で、4年制の学位を授与する教育機関として正式に認められました。州立大学が提供している学位と競合しないことを条件に、最大30種類の学位を授与できるようになりました。
このプログラムは、職業訓練にフォーカスした内容となります。例えば、シリコンバレーのFoothill Collegeは、試験プログラムで歯科衛生学専攻を実施しました。今後は、呼吸療法学や自動車工学の専攻を導入する計画です。社会で必要とされる人材の多様化に対応し、今後もさまざまな専攻が生まれると予想されます。
コミュニティーカレッジは、リーズナブルな学費も魅力の一つです。現在、全米24州のコミュニティーカレッジが4年制の学位を授与しており、より多くの学生に大学進学の機会をもたらすと期待されています。
3年制の学部プログラム
現在、University of MinnesotaRochesterやPortland State Universityなど13の大学が集まり、3年間で学位が取れるプログラムの可能性について協議を始めています。高校生のうちにAPプログラムやデュアルエンロールメントを履修したり、大学の夏学期にクラスを取ったりして、学部の卒業を早めるケースもあります。ただし、これらは、あくまでも4年分の単位を3年間で取ることになります。
これに対し、カリキュラムそのものを見直すことで、学部教育で必要な内容を無理なく3年間に収める方法についての検討が始まっているということです。時代の変化やテクノロジーの進化により、求められる大学教育の在り方も変わっていくはずです。学生のニーズに柔軟に対応したプログラムが生まれれば、それもまたアメリカの高等教育の強みになるのではないでしょうか。(2021年12月16日号掲載)