(2023年9月号掲載)
2023年8月4日、アメリカを代表するカレッジスポーツのカンファレンス(競技連盟)のひとつであるPac-12が、事実上崩壊しました。この日、Oregon、Washington、Arizona、Arizona State、Utahの5校が、Pac-12から他のカンファレンスへ移籍することを発表したのです。すでに移籍を決めたUCLA、USC、Coloradoの3校を合わせた8校が、24年6月30日を最後にPac-12を脱退します。Pac-12は、Big 5と呼ばれる全米5大カンファレンスのひとつで、多くの全米チャンピオンチームを輩出し、多くの名門大学がさまざまな競技で名勝負を繰り広げてきました。
大学がPac-12を離れることになった原因はお金です。各カンファレンスの最大の収入源は放映権料で、フットボールやバスケットなど、人気競技の放映権の収益を各大学で分配します。その収益が、Big 5の中で最も少ないのがPac-12です。カレッジスポーツの運営はお金がかかります。強いチームを作るために、プロチームのようなトレーニング施設を作り、リゾートホテルのようなクラブハウスを建て、優秀な学生を勧誘し、勝てるチームを作れる監督を招くのです。フットボールで好成績を挙げるチームのヘッドコーチは、軒並み年収1000万ドルを超えると言われます。
NILによるビジネスモデルの転換
21年7月から、学生アスリートは自分自身のNIL(Name、Image、Likeness)をマーケティングすることが可能となりました。自分の名前入りのアパレルや、サインボールを販売して収益を上げられるようになったのです。これにより、NILのブランディングを行うエージェントと100万ドル以上の契約をする学生アスリートが、次々と現れました。現在のNCAAのルールでは、学生アスリートが、アスリートとしての能力に対する報酬を、直接大学から得られません。しかし、近い将来このルールも見直されると考えられています。
優秀な学生アスリートの獲得に巨額の費用がかかる時代になれば、カレッジスポーツの運営コストはうなぎのぼりです。Pac-12の大学が、少しでも多くの収入が見込めるカンファレンスに移籍したいと考えるのは、自然なことかもしれません。
迷走するカレッジスポーツ
カンファレンスの移籍による一番の犠牲者は学生アスリートです。西海岸の大学がBig Tenに移籍すると、同じカンファレンスに所属する東海岸の大学と定期的に対戦することになります。授業を休み、大陸横断移動を学期中に何度も行うことは、学生の体力を消耗させ、学習面への影響も計り知れません。さらに、各大学では学生アスリートやチーム関係者が、スポーツ賭博に関与して逮捕される事件が相次ぎ、その対応にも追われています。カレッジスポーツが巨大スポーツビジネスになった以上、アマチュアリズムが失われていくのは避けられませんが、学生アスリートは、アスリートである以前に学生であると、カレッジスポーツに関わる全ての人が再認識すべきだと思います。
(2023年9月号掲載)
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