大学進学に不安やストレスを感じるのは、高校生なら誰でも経験することですが、学習に問題を抱える生徒(LD: Learning Differences)にとって、その苦悩は並大抵のものではありません。日々の学習もさることながら、自分はアドミッションでどう評価されるのか、大学に進学した後も今まで通り学習が続けられるのかなど悩みは尽きません。アメリカでは、障害を持つ学生が教育や進学で不利益を被ることがないよう、適切な支援が法律により義務付けられています。ただし、高校までと、大学進学後では支援の中身が異なります。高校卒業まではIDEA(個別障害者教育法)により、学校が個々の生徒の学習上の課題を見極め、適切な支援を無償で提供することが義務付けられています。一方、大学では、ADA(アメリカ障害者法)とSection 504(リハビリテーション法504条)で、障害を持つ学生が差別を受けることがないようにと規定しています。個々の学生に必要な支援を、学生本人が学校に要求するというのが大きな違いです。
LDを大学に伝えるべきか
私がLDの生徒の進学指導を行う際に必ず受けるのが「LDであることを大学に伝えるべきか」という質問です。結論から言うと、学習で支援が必要であることは、必ず大学に伝えるべきです。大学がアドミッションでLDの生徒を差別することは当然違法です。しかし、 LDであることを伝えることで、「大学から不利な扱いを受けるのでは?」、「仮に合否への影響は無くても、奨学金に影響するのでは?」というLDの生徒の不安も大いに理解できます。NCLD(National Center for Learning Disabilities: 国立学習障害センター)によると、LDを有する大学生で、そのことをきちんと大学に伝えた人はわずか24%です。自分がLDであることを伝えるべき理由として、次の2点が挙げられます。①自分に合った大学選びLDの学生に対する支援プログラムは全ての大学が持っていますが、その中身はさまざまです。自分にとって必要な学習支援が受けられるかはアプライする前に確認するべきです。ADAとSection 504は全ての大学に適用されるため、どの大学も対応可能な支援を明確に示しています。この支援プログラムでは、基本的なサポートが無償で受けられますが、LD学生をより積極的に支援する大学では、独自の支援プログラムを用意しています。自分のニーズを事前に大学に伝えることで、大学との相性の見極めがしやすくなります。
LD学生の支援プログラムの例
大学名 | 所在地 | プログラム名 |
Stanford University | Stanford, CA | Schwab Learning Center |
University of California, Irvine | Irvine, CA | Disability Services Center |
American University | Washington, DC | Learning Services Program for Freshmen |
Lynn University | Boca Raton, FL | Institute for Achievement and Learning |
DePaul University | Chicago, IL | Center for Students with Disabilities |
Curry College | Milton, MA | Program for Advancement of Learning |
Northeastern University | Boston, MA | Learning Disabilities Program |
High Point University | High Point, NC | Learning Excellence |
University of North Carolina | Chapel Hill, NC | The Learning Center |
Adelphi University | Garden City, NY | Learning Resource Program |
Hofstra University | Hempstead, NY | Program for Academic Learning Skills |
Middlebury College | Middlebury, VT | Disability Resource Center |
②正当に評価してもらうLDであることを伝えても、アドミッションで不利になりません。LDが成績やテストスコアに影響を及ぼしている場合、むしろLDを隠すことで不利になる可能性があります。また、LDによる困難を乗り越えて学校の成績を上げた生徒は、そのことをアプリケーションで示すことで、自分の成長をきちんと評価してもらえます。昨今のパンデミックは、LDの生徒の学習に大きな影響を及ぼしています。授業をオンラインで受けることで、授業に集中できない、適切な学習支援が受けられないなどの理由で、満足のいく成績が残せないケースが増えています。このような場合も、大学のアプリケーションでLDのことを伝えれば、不利な評価が避けられます。多くの大学が、LDの学生を積極的に支援しているのは、連邦法で定められているからだけではありません。LDの学生の中には、一般の学生と比べて我慢強かったり、特別な才能を持っていたりなど、大学にとって魅力的な学生が数多くいるからです。
進学準備の進め方
LDの生徒も一般の生徒も、進学準備に大きな違いはありません。ただし、LDの生徒の中には、SATやACTなどのアドミッション・テストが苦手という人が少なくありません。アセスメント(LDの評価)次第では、テスト時間の延長や途中の休憩を増やすなどの対応策を用意してもらえる場合があります。学習に問題を抱える生徒に必要な支援は、ひとりひとり異なります。学習上の課題と必要な支援を見極めるために、さまざまなアセスメントが開発されていますので、臨床心理士などの専門家に相談して適切なアセスメントを受けることをお勧めします。
(2021年1月16日号掲載)