大学のアドミッションは日々変化していますが、2020年のテストブラインド・ムーブメントは、全米の大学に大きな変革をもたらしていると言えるでしょう。2020年1月1日時点で、全米でテストブラインド(SATやACTのスコアをアドミッションで一切考慮しない)大学は、マサチューセッツ州の Hampshire Collegeただ1校でした。それから、わずか9カ月で59校に増えました。その中には、名門大学も含まれています。
裁判所の仮差止命令
カリフォルニア州アラメダ郡の裁判所は、カリフォルニア大学群(UC)の各大学が、2020-21年度のアドミッションでSATおよびACTのスコア利用を禁ずる仮差止命令を、20年9月1日に発令しました。これにより、UC各校は合否の判断や奨学金の評価にテストスコアが使用できなくなります。障害のある学生がアドミッションで不利益を被らないようにすることは、州法(CDPA)および連邦法(ADA)で定められています。特にパンデミック時は、アドミッションテストの際、障害のある学生に適切なアコモデーションの提供が難しいことが、今回の裁定の
根拠の一つです。この仮差止命令は単なるパンデミック対応ではありません。19年12月に、UCが学校区や人権擁護団体などから、テストを必須とすることは不当な差別と訴えられ、この訴訟に対する裁判所の判断が示されたのです。差止めは暫定的ですが、低所得者や障害者の権利遵守が目的の裁定が今後覆される可能性は極めて低いでしょう。
もともとUC Berkeley、UC Irvine、 UC Santa Cruzの3校は、今年度(20-21年度)からテストブラインドを行うと発表しており、一方でUCLAやUC San Diego など残りのUC6校は、テストオプショナルを採用したため、UC 内でテストへの対応が分かれていました。しかし、今回の裁判所の仮差止命令により、期せずしてUC全9校の足並みがそろったことになります。
テストブラインドの拡大
テストブラインド・ムーブメントを牽引しているのは、Caltechです。240人の定員に8000人以上がアプライする最難関校が、20年6月にテストブラインドを2年間試すと発表したことが、全米の注目を浴びました。さらに、Reedと Dickinsonなどの名門リベラルアーツカレッジがテストブラインドの導入を決め、検討する大学が急増しました。以前から、アドミッションテストの点数 は、マイノリティーや低所得者層が低くなる傾向があり、テストの義務付けは公平性を欠くと指摘されていました。そのため、テストを受けなくてもアプライできるテストオプショナルを採用する大学は年々増加し、20年初頭で、すでに1000校を超えていました。しかし、テストオプショナルとテストブラインドでは、その中身は大きく異なります。テストオプショナルでは、学生が任意で提出したテストスコアはアドミッションで考慮されます。大学がいくら「テストを受けない学生を不利に扱わない」とテストオプショナルの意義をPRしたところで、テストを受けた学生を評価している以上、額面通りに受け取れません。不平等の根絶が目的であれば、テストブラインドの導入は不可避です。その意味でも、カリフォルニア州の判断は、全米の大学に影響を与えることは間違いありません。テストオプショナルでお茶を濁すのか、それともテストブラインドに挑むのか、テストの扱いは、アドミッションにおけるあらゆる差別の排除への大学の本気度が問われることになります。テストブラインドは、いずれアドミッションで主流となるはずです。最後に、忘れてならないのは、大学のアドミッションは、学校の成績とエッセイが基本であることに、今までもこれからも変わりはないということです。進学を検討中の高校生は、テスト対策よりも、高校での日々の学習に注力することをお勧めします。
テストブラインドを導入した大学例
大学名 | 実施条件 |
California State 23 campuses | 1-year pilot |
Caltech (CA) | 2-year trial |
Catholic University (DC) | Permanent |
Hampshire College (MA) | Permanent |
CUNY 11 campuses (NY) | 1-year pilot |
Reed College (OR) | 2-year pilot |
Dickinson College (PA) | 1-year pilot |
Washington State University | 1-year pilot |
(2020年10月16日号掲載)