アメリカの大学の特徴のひとつに、他大学への転入学(トランスファー)制度が挙げられます。National Student Clearinghouseの調査によると、アメリカの2年制と4年制の大学生の37%が他大学への転入を経験し、さらにそのうちの45%が転入を2回以上経験しているそうです。また、2020年から数年間は転入希望者が大幅に増えるというのが、大学関係者の共通認識です。パンデミックの影響で、これまでの学費が払えないなどの要因が挙げられます。
トランスファー制度とは
トランスファー制度の基本は、合否判定(アドミッション)と単位認定(クレジット・トランスファー)です。つまり、A大学からB大学に転入するとは、B大学がその学生の入学を許可し(アドミッション)、A大学で履修した授業の一部(または全部)をB大学の単位として認定(クレジット・トランスファー)することを意味します。転入先選びは、自分を受け入れてくれるかどうかと、どの程度の単位を認定してもらえるかを考慮します。必要な書類をそろえてアプリケーションを作成し、オンラインで提出するという基本的な流れは、転入もフレッシュマンのアドミッションと同じです。ただし、大学で履修済みのコースや単位数によって、高校の成績表の提示の有無や、ACTやSATのスコア提出の要不要など、条件が異なります。カリフォルニアの州立大学のように、一般教養科目の履修がほぼ終了した3年生からの転入しか認めないという例外はありますが、全米のほとんどの大学では、1学期でも大学で学んだ学生は転入の対象となります。つまり、転入を希望する学生は、有利なタイミングの見極めが重要です。
4年制大学から4年制大学へ
オバマ前大統領は、一般教養をリベラルアーツカレッジのOccidentalで履修し、主専攻の政治学を研究系大学のColumbiaで履修しました。学習目的に応じて大学を変えるのは、4年制大学間で転入する目的のひとつです。しかし、転入は、フレッシュマンで進学するよりも狭き門となる場合も少なくありません。転入の受け入れは大学にとって欠員補充であるため、教育の質の高い大学では欠員が少なく、結果的に転入で受け入れる学生の枠も小さくなります。19年にCaltechが受け入れた転入学生は、受験した158人のうち3人です。プリンストン大学は、1429人の受験者のうち13人を転入で受け入れ、スタンフォード大学の19年の転入の受け入れはゼロでした。
2年制大学から4年制大学へ
転入学生の中で、最も多いのが、2年制大学から4年制大学への転入です。同一州内の2年制のコミュニティーカレッジと4年制の州立大学は、単位互換協定(Articulation Agreement)を結んでいる場合が多く、転入先の大学で確実に単位が認められるからです。高校のカウンセラーは進学で悩む生徒に対して、コミュニティーカレッジへの進学を勧めることがありますが、リスクの高い選択であることは、あまり説明されていないようです。コミュニティーカレッジに進学する学生の約8割が、4年制大学に転入して学位を取得することを希望していますが、実際に4年制大学に転入できる学生はその4分の1に過ぎません。しかも、転入先の大学で学位を取得する学生は、転入した学生中、6分の1です。トム・ハンクスやジョージ・ルーカスは、コミュニティーカレッジから4年制大学に転入して大成した人の例としてよく語られますが、成功例の陰には、はるかに多くの失敗例があるのです。
トランスファー制度の活用
アメリカの大学は、交換留学やインターンシップなど、同じ大学に4年間在籍することを前提としたプログラムも多く、大学で得られるサービスを最大限に活用するには、在学中に大学を変えることは積極的にお勧めできません。しかし、合わない大学に長く居ることで、さらなる成績の悪化を招くよりは、自分に適した環境で心機一転やり直す方が得策です。問題の多くは、入学から1年以内に発生します。その問題が転入で解決できるのならば、速やかに準備を始めると良いでしょう。
(2020年11月16日号掲載)