全米では5人に1人は学習や注意力などに何らかの問題があると、NCLD (National Center for Learning Disabilities:国立学習障害センター)は指摘しています。読む、聞く、話す、書く、計算する、推論するなど、学習に必要な能力の中で著しく苦手な分野があることを、連邦法の IDEA(Individuals with Disabilities Education Act:個別障害者教育法)は SLD(特定学習障害:Specific Leaning Disabilities)と定義します。特定学習障害には、Dyslexia(読んで理解することの問題)、 Dysgraphia(書いて伝えることの問題)、 Dyscalculia(数学的に理解することの問題)、 Dysphasia(話し言葉を理解することの問題)、 Dyspraxia(DCD:運動機能の問題)、Attention Deficit/ Hyperactivity Disorder(ADHD:注意力不足や衝動的な行動の問題)などが含まれます。
学習障害ではなく、学習方法の違い
特定学習障害の子どもは、学習能力がないわけではありません。他の子どもと同じ方法で学ぶことが難しいだけです。つまり、学習方法が違うのです。学習において、得意、不得意は誰にでもあり、そういう意味では、誰もが学習に何らかの問題を抱えていると言えます。このような問題を障害と呼ぶのは適切ではないという考え方もあり、アメリカの教育界ではLearning Disabilities(学習障害)ではなく LearningDifferences(学習方法の違い)と呼び、個性の一つとして扱っています。なお、ギフテッド(ずば抜けて高い知的能力を有する)かつLDの生徒は2e(Twiceexceptional)と呼ばれています。GDC(Gifted Development Center)によると、ギフテッドの生徒の6分の1がLDを有するそうです。また、NCLDは、DyslexiaまたはDyscal culi aと診断された生徒の30〜70%が両方の問題を持っていると指摘しています。さらに、ADHDの生徒の45%は他のLDも有するそうです。
最適な学習方法の検討
学習に問題を抱える生徒の支援は、最適な学習方法の見極めが重要です。授業についていくのが難しくても教科書を読めば理解できる生徒は、視覚学習が得意な生徒かもしれません。予習・復習は苦手でも、先生のレクチャーを聞くと理解できる生徒は、聴覚学習が向いているかもしれません。アメリカでは、学習に問題を抱える生徒に対して、学校が個々の生徒の課題を見極め、適切な支援を無償で提供することが IDEA により義務付けられています。ノートを取ることが苦手な学生のために講義を録音したりノートを代筆したりする支援や、教科書を読むのが苦手な学生のために、教科書を録音テープで聞かせる支援などがあります。また、必要に応じてテスト時間の延長や、宿題の提出期限の延長という支援も可能です。5人に1人が学習に問題を抱えているのに対して、公立学校で学習支援を受けている生徒は50人に1人です。学習に問題を抱える生徒は、適切な支援を受けることで目覚ましい成果を挙げる場合が多く見られますが、一方で判断の難しさや親の知識不足などから、適切な対応が取られていない場合も多く見受けられます。学習のつまずきの原因を見極め、弱点を補う方策を検討・実施することが重要です。
長期目標を立てて取り組む
LDの生徒の多くは、平均以上の知的能力を有すると言われています。そのため、宿題やテストの点数に一喜一憂しがちですが、今の学校の成績を上げることよりも、将来満足のいく人生を歩むことの方が、はるかに大切です。LDの生徒の成長に必要なのは、自分を知ることと自信を持つことです。失敗が重なると、自己否定につながります。苦手な分野を得意な分野で補えれば、失敗を成功に変えられます。成功体験の積み重ねが自信につながります。自分を知ることは、必要な支援を周囲に依頼するためにも重要です。大学や大学院に進学したり、社会で活動したりする際に、自分の得意な分野を活かして活躍すると同時に、苦手な分野を周囲にサポートしてもらいながら、日々充実した生活を送れるようになることが、人生の成功につながります。
(2020年12月16日号掲載)