アメリカの大学を卒業した後、大学院進学を希望する学生は多く、毎年50万人以上の学生がアメリカの大学院に進学しています。日本以上に学歴を重視するアメリカ社会では、大学院レベルの学位を必要とする職種も少なくありません。文科省の調査によると、2017年に日本の大学院に在籍している学生は約25万人、これに対してアメリカの大学院では、外国人留学生だけで約35万人が在籍し、大学院生の総数は184万人にのぼります。今回は、アメリカの大学院教育をご紹介します。
アメリカの大学院の特徴
アメリカの大学院教育は、 専門分野をより深く学習するためのプログラムです。多くの場合、独自研究に基づいた論文の作成と発表が求められます。学問を追求する一般の大学院(グラジュエイト・スクール)に対して、特定のキャリア・トレーニングを目的とした大学院はプロフェッショナル・スクールと呼ばれます。弁護士を目指す学生のための法科大学院(ロースクール)や医学を学ぶ医学大学院(メディカルスクール)などがこれにあたります。大学院の専攻が学部と同じである必要はないので、大学院で学部とは異なる分野を学び、進路の方向転換を図ることも可能です。特にプロフェッショナル・スクールでは、学部の専攻についての制約は一切ありません。例えば、学部で工学を学んだ学生が法科大学院に進学したり、学部で経済を学んだ学生が医学大学院に進学したりすることは、決して珍しくありません。
大学院のアドミッション
アメリカの大学(学部)は、全学で一本化されたアドミッションを行いますが、大学院 では学部ごとにアドミッショ ンを行います。ただし、一連の流れは大学(学部)のアドミッションと良く似ています。大学院の入学審査では、大学の成績とエッセイ、推薦状およびGRE(Graduate Record Exam)のテストスコアを提出します。GREは、SATの大学院版のようなテストで、SATt同様にGREにも教科ごとのsubject Testがあります。また、目説を受ける場合もあります。プロフェッショナル・スクールでは、GREの代わりに指定されたテストのスコア を提出します。法科大学院ではLSAT(Law School Admission Test)、 医学大学院でMCAT(Medical College Admission Test)、経営学大学院ではGMAT (Graduate Management Admissions Test)のスコアを提出します。なお、多くの経営学大学院ではGMATの代わりにGREを提出できます。
大学院進学を視野に入れた大学選び
自然科学や工学、教育学など、アメリカで就職する際に修士レベルの学位が求められ る分野は多く、大学院進学を 前提に大学進学をする学生 も多く見受けられます。この 場合、学部教育は大学院進学 の準備という側面もあるため、 大学選びに工夫が必要です。学力の高い学生は、大学選びで知名度の高い大学に目が行きがちですが、必ずしもそ れがベストな方法とは限りま せん。難関大学に進学しても、そこで満足のいく成績が残せなければ、大学院進学で不利になります。名門大学に進学したからといって、成績が低くて良いわけがありません。 逆に、小規模で無名のリベラルアーツ・カレッジに進学しても、そこで手厚いサポートを受けて好成績を修めることができれば、大学院進学の選択肢は大いに広がります。また、最終的に大学院まで進学したい学生は、学部選びの際に、自分の専攻分野の評判などを気にする必要はありません。例えば、将来生物学の研究者を目指している場合でも、学部選びで生物学に強い大学を探す必要は必ずしも ありません。専門分野を極めるのは大学院に進学してからとなるわけですから、学部では自分の学習スタイルに合った教育システムを持つ大学を選び、大学院進学の際に、自分の専門領域に力を入れている学校を探せば十分です。学部教育の質に課題を抱える大規模州立大学も、大学院では質の高い教育プログラムを有している場合が多くあります。大学院は高度な教育を受けて自分の専門分野を極める機関、言い換えれば、明確な目標を持った学生が学ぶところです。「大学を卒業しても、就職先ややりたいことが見つからないから、とりあえず大学院に進学する」というような、曖昧な気持ちで進学しても、問題を先送りするだけで、満足のいく成果には繋がりにくいでしょう。大学院は、自分の目標が明確になり、必要に迫られた場合に進学を検討することをお勧めします。
(2019年10月16日号掲載)